ツールドフランス

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2014年のツールドフランスはヨークシャーが出発点である。ので、この地域は浮き足立っている。

 

そもそもイギリス北部は経済的に圧倒的に南部に比べて弱い。地価も物価もおかげさまで安いが、給料も基本的には南部とは比べ物にならないほど安い。その上緊縮財政だなんだであちらこちらの博物館やセンターが閉鎖されたり業務縮小されたりで不景気な話が続いている。

HS2という高速鉄道でロンドンからリーズまでを結ぼう、という案が現在進行中ではあるのだが、昨年の夏ぐらいだったか地元のラジオ局では「リーズから工事を始めてくれ。途中で予算がなくなっても、数年の間少なくとも地元が潤う」と地元の人が切々と訴えていた。かつて「ゆりかごから墓場まで」の保証をしたイギリスは今現在保守党政権下で大幅に社会保障を切り捨てているし、その上EUから来る移民に対するパニックはなにかよくわからない移民全体に対するパニックへと変わりつつあり、それはまた、インドパキスタン系移民が固まって暮らす地域の多いこの辺りになんだかどんよりとした空気を醸成しているように思われる。

 

ま、そんな地域だから観光客が(もしかしたら)大量にやってくるかもしれないこういう行事は大歓迎、なのだろう。

私の住む小さな町でも、喫茶店の窓に黄色い旗が飾られ、一般家屋にも黄色く塗られた自転車の車輪が飾られ、飲食店は軒並みこの週末に改装を終える。近隣の農場はツールドフランスの間だけ、農地の一角をキャンプ場として開放しており、少しでもお金をもうけようと張り切っているし、子供を迎えに行く学校の校庭では「○○さんが家を一週間数千ポンドで貸す契約をしたから、そのお金で今年の夏はスペインに家族旅行みたいよ!」なんて話になったりする。

この1年間、週末に自転車に乗る中年男性の人数はとても増え、「もう今はミドルクラスの男性だったらゴルフじゃなくて自転車だよね」なんて軽口をたたく知り合い達の会話に思わず頷いてしまうほど、要するに、町中が浮き足立っている。

 

2年前、イギリスに引っ越して来た夏も、そういえばそんな感じ、何か浮き足立った感じがあった。ちょうどオリンピックとエリザベス女王在位60年だったからで、あちらこちらにはためくユニオンジャックは確実に1990年代半ばから2005年ごろまで行ったり来たりでイギリスで過ごした私にとっては違和感のある、「私の知らないイギリス」ではあった。多分、そのせいもあって、何となく一緒に興奮できずにいるのだが、今日は思わず吹き出してしまうお誘いを受けた。

 

この辺り、実はデボンシャー公爵の領地が広がっているのだが、そのデボンシャー公爵が、ツールドフランスの間だけ大きなラウンドアバウトの真ん中に見物台を作る、という噂が広がっているのだそうだ。確かにルートにあたる近所の家では工事の時の足場のような物見台が作られていたりするから、出来ない話ではない。

 

「ね、だから見に行こうよ!」

 

レースの間は車は通れないよ。

 

「歩いて行きましょうよ。3時間も歩けばつくよ!」

 

世界レベルでの自転車レースがやってくるときに、ラウンドアバウトの真ん真ん中の物見台に突っ立っている公爵、というのも、想像するとなかなかシュールだが、その噂が本当だか確かめに行こうよ、というイギリス人達も、なんだか妙だ。

 

大騒ぎのイベントも7月の5日6日の二日間。車での身動きが取れなくなることは必須だから、これから色々と買い出しをしなければ。そして、二日間が終わったときに、本当にわずかでもヨークシャーのこの地域が潤っていることを、私は切に祈っている。