菜食主義と政治と
Preparing Vegetable Stock | Flickr - Photo Sharing!
保守党は首相の大学時代の悪ふざけが暴露されて何かお祭りの様相を呈しているイギリスだけれど、それで労働党は、首相を叩いているのか、といえば、リーダーとなったジェレミー・コービンが、vヴィーガン(乳製品もとらない菜食主義者)のケリー・マカーシーを影の内閣の環境農政担当に据えた、ということでいろいろと悶着を起こしている。
マカーシーが肉食は喫煙と同じように扱われるべきだ、と、ヴィーガン向けの雑誌で語ったのが報道され、酪農、畜産農家を始めとする産業の人々の大きな反発を招いているのだ。ちなみにイギリスでは現在、レストランやパブは室内全面禁煙である。喫煙室があるわけではない。肉食を喫煙扱いせよ、というセリフがどのくらいきつい発言なのかは想像がつくだろう。
日本でヴェジタリアニズムが語られるときは大概健康か宗教がらみなので、ヴェジタリアニズムの政治性がぴんと来ない人は多いのではないかと思う。
もちろん、個々のヴェジタリアンが菜食を選ぶ理由は様々だ。動物愛護の視点でという人もいるし、健康が、という人もいるだろう。狂牛病騒ぎに踊らされたイギリスでは、あれをきっかけに菜食に転向した人も一定数いる。宗教上の理由で選ぶ人ももちろんいる。
けれど、無視できないのは、1キロの牛肉を作るためには20キロの穀物が必要であり、肉食は環境負荷が極めて高い、という(ある程度の教育レベルを持った人の間には共有されている)認識だ。
こうした論点を初めて英語圏に広めたのはフランシス・ムア・ラッペの1971年のベストセラーDiet for a Small Planet (邦題:『小さな惑星の緑の食卓―現代人のライフ・スタイルをかえる新食物読本』)であって、この本で初めて、肉食がいかに環境負荷が高いか、そして、途上国の食物不足の原因になっているのか、が指摘された。
自分たちの肉食が、貧しい国の飢餓に加担している、という罪悪感もあって、レシピも交えたこの本は非常に大きなインパクトをもった。
我が家はヴェジタリアン雑誌を定期購読しているのだが、広告には「(発展途上国の人々を搾取していない/不要な動物実験をしていない等)倫理的な製品」がそれなりに見受けられ、ヴェジタリアニズムと、ある種の倫理的なスタンスの親和性を感じさせる。
ちなみに心臓病に肉食が悪い、というリサーチ結果が広く受け入れられた背景にはDiet for Small Planetのインパクトがあるのではないか、とジャーナリストNina TecholzはThe Big Fat Surprise: Why Butter, Meat, and Cheese Belong in a Healthy Dietの中で推測している。
とはいえ、イギリスはMeat and 2 veg (お肉と野菜が2種類)が伝統食な国だ。それが倫理的に問題あり、というのは日本人に一汁三菜をやめろというのに近く、一般的に大きな抵抗があるのは想像に難くない。肉を焼いて、ブロッコリーとニンジンを茹でてパンでも、(じゃがいもでも)というのが基本形の国にそんなことを言った日には、私が住んでいるような田舎町の肉屋も、周辺の酪農家も畜農家も大パニックだし、普通に肉を食べている大多数のイギリス人も「??」ではあろう。
そういうわけで、菜食主義者を農政担当につけるという行動、(コービン自身もヴェジタリアンだ)一体どのような背景から来ているのがというのはよくわかると同時に、それに対する反発もしっかりわかり、いろいろと複雑な気分になる事態ではある。
小さな惑星の緑の食卓―現代人のライフ・スタイルをかえる新食物読本
- 作者: フランシス・ムア・ラッペ,Frances Moore Lappe,奥沢喜久栄
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1982/05
- メディア: 単行本
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The Big Fat Surprise: Why Butter, Meat, and Cheese Belong in a Healthy Diet
- 作者: Nina Teicholz
- 出版社/メーカー: Scribe Publications
- 発売日: 2015/07/02
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