ホーディング(汚部屋)、という病

 『母は汚屋敷住人』という漫画がある。とにかく何もかもを溜め込む母親と同居した娘が、いかに家を掃除しようとして挫折したか、の一連の流れを描いたエッセイコミックだ。

これから買って読む人もいるかもしれないので中身にはあまり触れたくないが、途中で主人公である娘が、はっと気づくシーンがある。

 

「母は、『片付けられない人』なのではなく『片付けたくない人』なのではないか」

 

・・・これをホーディング(hoarding)ーもう少し厳密にはcompulsive hoardingーと呼ぶ。2013年からDSM-5(精神障害の診断と統計マニュアル第五版)に組み入れられた、れっきとした精神障害の一種である。

現在イギリスでは300万人前後がホーディングの症状に苦しんでいると言われている。

もちろんNHSのウェブサイトにも説明が載っている

母は汚屋敷住人

母は汚屋敷住人

 

 

私がCompulsive hoardingという概念に初めて出会ったのは2013年のBBCドキュメンタリー番組 Britain's Biggest Hoardersがきっかけだった。今にしてみると、DSM-5に組み込まれたことが、番組制作のきっかけの一つだったのだろう。


Britain's Biggest Hoarders Series 1 Episode 1 BBC ...

 

プレゼンターをしているJasimine Harmanは彼女自身がホーディングの問題を持つ母親に育てられ、2011年にはDSM-5に先駆けて、「ホーディングは心の病であり、サポート体制が必要だ」とする番組My Hoarder Mum and Meをプレゼントしている。

非常に心を打つドキュメンタリーであったらしい(例えばレビューはこちら)のだけれど、残念ながら私は未だにみることができていない。

 

Britain's Biggest Hoardersは、息を飲むほど凄まじいドキュメンタリーで(「最後にトイレに入ったのはいつですか?」「8年ぐらい前でしょうか」といった会話がなされるほど、家の中に物が溢れかえっているのだ)しかし、それがプレゼンター、ジャスミンの徹底して「捨てられない人々」に寄り添う姿勢によって救われてもいる。

 

捨てられない、汚部屋に住んでいる、のは、必ずしも当人たちが「汚いのが好き」「怠け者」「金遣いが荒い」(しばしばホーダー達は安売りの物を買ってきては溜めていく・・・)からではなく、そういう病気なのだ、とジャスミンは言う。

アルコール中毒の人にサポートが必要なように、汚部屋、汚屋敷の住人達にも、本当は(多分)サポートが必要なのだ。言うまでもなく、汚屋敷住人の家族達にも。

 

ジャスミンの弟は11歳の時、学校から「あの家は子供が住むのに適切な環境ではない」とされ、母の手元から引き離されたという。それは、彼女の片付けられない傾向をただ悪化させた。ジャスミンは言う。

私の一番下の弟(当時11歳)が学校の、この家は子供が住むのに適切な環境ではないという主張によって、母の家から引き離された時、母は「片付けよう」という気を起こすどころか、状況はさらに悪化した。

母はとてつもなく弟に帰ってきてもらいたかったのに、麻痺したかのように何もできず、ソーシャルサービスからもNHSからもほとんど支援がなかったのだ。

母は自分で家を片付けるものだと思われていたのだ!

私に言わせれば、それは拒食症の人間に食べればいいのよ、といったり、アルコール中毒の人間に酒をやめればいいんだ、といったりするようなものだ。事はそんなに簡単じゃない。

When my youngest brother (then aged 11) was removed from her home when his school insisted that it was not a suitable environment for a child, instead of motivating her to 'tidy up' things got even worse.

Although she desperately wanted him back she was paralysed and received little support from social services or the NHS.

Mum was just supposed to get on with clearing out the house on her own!

In my opinion this would be the same as telling an anorexic to just start eating, or an alcoholic to just stop drinking. It's not as easy as that.

 

 

汚部屋や汚屋敷話を、私たちは大好きだ。

汚部屋で検索するとかなりの数のブログがヒットするし、そういう書籍もかなり出ている。その多くが、どうやって汚部屋が綺麗になっていったかを生々しく綴るサクセス・ストーリーだ。

 

けれども、そうやって一つの汚部屋や汚屋敷が綺麗になる影には、おそらくもっと多くの、精神疾患レベルのホーディングに悩まされている人々がいるのだろうな、と思う。

いうまでもなく、ホーダーの家族達も苦しむ。

 

ジャスミン・ハーマンの母は、「同じ思いをして苦しんでいる人たちにあなたは一人ではないと伝えたい」と、出演を決めたという。あまりの物の量に歩く事さえできないような家をテレビに出すにはかなりの勇気を要しただろう。

しかも、娘、ジャスミン・ハーマンはそのころインテリア番組のプレゼンターをしていた。

 

今、ジャスミン・ハーマンはホーダー達を助けるためのチャリティを主催している。

Help for Compulsive Hoarders and their families - Help For Hoarders

 

多分、これは、きっと日本にも必要な情報なのだろうな、と思う。