Jonathan Strange and Mr Norrell

 

Jonathan Strange and Mr Norrell

Jonathan Strange and Mr Norrell

 

 もう10年以上前に発表されたファンタジーで、BBCでドラマ化もされているようなのだが、手に取ったのはこの冬、しつこい風邪に家族全員がダウンしたクリスマス休暇の最中だった。

著者スザンナ・クラークの処女作で、すでに日本語訳も出ている。「ハリー・ポッタージェイン・オースティンを混ぜたような作品」と聞いて、興味を惹かれたのだった。

一体何をどうすれば、そんな組み合わせが可能になるのだろう、と。しかし、2005年のヒューゴー賞を取っているのであれば、それほど質の低い作品でもなかろう、と大して期待もせずに、kindleにダウンロードしたのだ。

 

そして、読むなり、「なるほど」と納得した。

 

読後感は、私としては「あざとい悪人の描き方がむしろサッカレーに近い?」という印象。文体は意図的にオースティンであるとか、あの時代のパスティーシュになっているのだが、非常にイギリス小説らしい皮肉なユーモアが効いていて、これはあの時代の小説を好きな人にはこたえられないのではないかと思う。

ナポレオン戦争の時期を背景に、すでに滅びたはずの「英国の魔術」をノレルとストレンジという二人の男が復活させようとする物語であるのだけれど、とにかく文体の巧妙さに引っ張られる。

showをshewとchooseをchuseとスペルするような古めかしさもいい。

「英国魔術の復活」を目指して研鑽を積む二人の男たちは、同時に研究者でもあり、研究職にいる人間には、ついつい「にまり」としてしまうような部分もある。

ヨークシャーに住んでいる人間としては、もう一つ、とても面白いのがこの作品が意識的にイギリス南部と北部の断絶を描いていることで、ストレンジも、ノレルも、かつてRaven king (カラスの王)と呼ばれる偉大な魔術師が中世に王国を築いたとされるヨークシャーの出身だ。

 

とにかく、息もつかずに読みきった感があるこの本、一つ「失敗したな」と思うのはkindleで読んだことだ。というのも、最後に膨大な量の脚注がついていて、小説を読みながらそれをめくっていくとおそらくとても楽しかったのではないかと思うからだ。

架空の歴史書のような体裁をとるこの作品、19世紀初頭のイギリス小説が好きな人には掛け値なしにお勧めできる。

 

ジョナサン・ストレンジとミスター・ノレルI

ジョナサン・ストレンジとミスター・ノレルI