『マッサン』スコットランド、そしてエリー
スコットランド独立関連のニュースが静まった頃、(おそらくそれを意識してこのタイミングではあるのだろうけれど)日本では初めての外国人ヒロインを起用しての朝ドラ『マッサン』が始まった。日本のウィスキーについては家人が仕事をしていたこともあって、これは非常に気になるドラマ。
始まったばかりのドラマでこれから色々と変化もして行くだろうから、とりあえず最初二回を見ての印象。
まずはヒロインがスコットランド出身というよりは「アメリカ人」に見える。あるいは「存在しない想像されたアメリカ人」。
それは女優さんがアメリカ人だから、というわけではなく、むしろ「エリー」を現実のリタよりもむしろ日本人にわかりやすい「外国人」として表現しようとしている脚本と制作の方針のせいで。それは本来もっと暗い色の髪をしたリタが明るい金髪の「エリー」に変えられていることからもよくわかる*1。作品自体は楽しんでみているのだけれど、そういうわけでちょこちょこと違和感を感じざるを得ないドラマでもある。
たとえば今日のエピソードに”I love you!”と突然エリーが政春に抱きつくシーンがあるのだけれど、やはりそれは変。17−18ぐらいの少女ならともかく(それでもちょっと変)初めて訪ねた夫の家で義妹の前で普通だったら夫に突然抱きつかないだろう、と思うからだ。なんといっても2011年の段階で7人に1人が「人前での愛情表現は不適切」と答えるお国柄である。100年前のアッパーミドルクラスなど推して知るべし。(ちなみにブリティッシュは伝統的にはあまりハグをしないので、最初っから番頭さんやお姑さんに抱きつく描写はおそらく歴史的に正しくない。「最近のブリティッシュはハグをするようになった!」と新聞記事になるくらいなのだ。)
これを見て「愛情表現のストレートなガイジン」というステレオタイプをなぞっている・・・と考えるのは多分正しいのだけれど、おそらくそれだけではない。
だって、これ、どこかで見たことがある。
突然抱きつく美少女、あたふたする少年という構図。
日本の少年漫画やアニメによくある「突然無邪気に身体的な愛情表現をしてくる女の子」の型にはまっていると考えた方がよいのだ、多分。古くは『うる星やつら』のラムちゃん。『崖の上のポニョ』なんかも、それっぽい。どちらも少女は「人間ではない」。
堅苦しい旧家はイングランドにもスコットランドにもたんとあるというのに、夫の家に初めて訪れたエリーには(夫が「歓迎されている」と嘘をついたにしても)そうした家への警戒心のようなものが全く見えない。
そんなエリーのあのナイーブさ*2は、英語圏では伝統的にスコットランド女性ではなくアメリカ人女性にしばしば結びつけられるものだと思う。ヘンリー・ジェイムスの作品群とか。おそらく、私がこのドラマを見ていて「100年前のスコットランド人女性を見ているというより、80年代のホームステイに来たアメリカ人女性を題材にした日本ドラマを見ているみたい」と思ってしまうのはそんなあたりなのかも。
どこかでシャーロット・ケイト・フォックスが百年前に生きたスコットランド女性と現在のアメリカ人女性である自分と日本人男性の書いた脚本のエリーの緊張関係に言及していたけれど、確かに非常に難しい仕事だ。何よりも文化的にも、そしてジェンダーの意味では余計に脚本よりもおそらく前二者の方が近い場所にあるというところが・・・。
ちなみに。今日初めて実際にある程度英語を話すシーンがあった。スコットランドアクセントを一生懸命話そうとしているそぶりがある。NHKが指導をしたとはあまり思えないので、おそらく日本語を学ぶ傍ら独力で練習したのではないかと思う。(残念ながら、イングランド人が聞くとずれているようですが・・・)シャーロット・ケイト・フォックスが日本に来る前にどのような準備をしたか、は本国アメリカの業界紙のインタビューに詳しい。
そして最後に。既に絶版の1998年出版、Olive Checklandによる社会史の本、Japanese Wshisky, Scotch Blendが日本語に翻訳されていることに気づいた。原書は既に絶版なので、これはちょっと嬉しい。
Japanese Wshisky, Scotch Blend
- 作者: Olive Checkland
- 出版社/メーカー: Scottish Cultural Pr
- 発売日: 2001/08
- メディア: ペーパーバック
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