Chris Riddellの文学パロディ児童小説 Goth Girl and the Ghost of a Mouse

 

Goth Girl: and the Ghost of a Mouse (Goth Girl 1)

Goth Girl: and the Ghost of a Mouse (Goth Girl 1)

 

 通常の本だったらKindleで読んでもかまわないと思うのだけれど、この本ばかりは、やはりハードカバーで読みたい。イラストレーターでもあるクリス・リデルが文も絵も担当していることもあって装丁も美しいし、物としての本の形で持っておく価値は十分にあるからだ。(おまけの小さな本もついているし)

 

想定読者年齢は10歳ぐらいだろうか。本好きな子だったらもっと早くに読めるだろう。

しかし、子供向けと侮ることなかれ。これ、イギリス史、イギリス文学好きには、単純なストーリーのレベルを超えて楽しい本である。

主人公はエイダ。大きなお屋敷のお嬢様だ。父親は有名な詩人のLord Gothで、"Bad, mad and dangerous"と形容される。

 

ここまで読んだ時点で、ある程度イギリスに関する知識のある人間だったら「ああああああ」となるはずだ。言うまでもない、下敷きになっているのは詩人ロード・バイロンとその娘(であり、世界最初のコンピュータプログラマーとも言われる)エイダ・バイロンだ。

ちなみに作品には計算機を作るために屋敷を訪れているキャベツ博士(原語ではDr Cabbage・・・ 当然、 Charles Babbageをもじっている)が登場したりと色々忙しい。イシュマエルという名前のネズミが登場し"Call me Ishmael"とやらかしたときにはさすがに悲鳴をあげそうになったし、コックさんの名前がMrs Beat'em (あいつらを殴れ、と聞こえると同時に19世紀の有名な家政の指南書の著者ミセス・ビートンをもじっている)なのには笑い声を押し殺すのに苦労した。

テリー・プラチェットを思わせるようなナンセンスなダジャレ。わかる人にしかわからない(主に)英語圏の作品群への目配せ。メイドさんや煙突掃除が登場し、ガヴァネスが登場し、メアリ・シェリーを思わせる女性も登場する。

これでもか、と詰め込まれたレファレンスの数々についつい笑ってしまう。

爆笑するようなユーモアではなくて、クスクスと笑ってしまうような、あるいは「勘弁して、このダジャレ・・・」と笑いながらも情けない顔になってしまうような、そんな本なのだ。

著者クリス・リデルについては今まで絵本の印象が強く、「漫画のような絵を描く人」ぐらいの認識しかなかったのだけれど、こればかりは良い意味で想定を裏切られた。絵が好きな人も、お屋敷が好きな人も、イギリス史が好きな人も、そして、児童書が好きな人もどうぞ。

 

The Emperor of Absurdia

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