『英国メイドマーガレットの回想』他
ずっと読みたいと思っていた書籍が何冊か日本から届いた。『ダウントンアビー』は、まだ見ていないのだが、色々と思うところがあって、ちょっと家事使用人のあたりを知りたいと思ったのだった。なんといっても私の知識は昔こちらに住んでいたときにテレビでやっていたEdwardian Country House (Manor Houseマナーハウスとして現在はDVDで発売されている)それから、川北稔の『民衆の大英帝国』にあった(気がする)使用人はライフステージの一部、みたいな話のあたりで止まっている気がするので。
『マーガレットの回想』の原題はBelow Stairs、階下の使用人のスペースを表す。住み込みの使用人など今ではほとんどいないにも関わらず、今でも口に出せば誰もがわかる表現だ。私がその表現にであったのはまだ大学生だった頃、アラン・クラークがらみでだった。
1994年保守党の政治家アラン・クラークが南アの裁判官の妻と娘と長年にわたって性的関係を持っていたことが発覚した。いわゆるHarkess Affairである。まあ、色々知れば知るほどなんとも言えない事件なのでこれについてはあまり深くは語らないけれど、クラークの妻の台詞がふるっていた。"Well, what do you expect when you sleep with below stairs types?" (使用人みたいな人と寝るからこういうことになるのよ。)
1994年だから時代錯誤も甚だしい台詞ではある。
さて、話を元に戻そう。
Margaret Powellの原書は1968年に出版されてベストセラーになって以来、おそらく今でも階下の生活を描くときには参考にされる書籍だろうと思う。それに読みやすい良い訳がなされている。
「メイドさん萌え!」の需要もあるのだろうけれど、私にとって面白かったのは、この書籍の出版が50年代から始まったワーキングクラスの自伝ブームの一環であるということで、確かに描かれている1920年代の空気だけでなく、第二次大戦後のイギリスの空気のようなものを、ほんの少し感じることができる。
実際に出版された後には「使用人達がこんなことを考えていたなんて傷ついた」という反応が多くあったという。この本を生き生きとしたものにしている辛辣な批判やあからさまなユーモアは、おそらく「奥様」には見せないものだったのだろう。
草分けともいえる本書の後、数多くのメイドさんの回想録が出版されたわけだけれど、1968年初版のこの本には、やはり今でも読まれるだけの魅力があるのだった。
Below Stairs: The Bestselling Memoirs of a 1920s Kitchen Maid (Pan Real Lives) (English Edition)
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