永遠の、薬

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Apothecary Hall - National Botanic Garden of Wales | Flickr - Photo Sharing!

 

 

西洋医学、東洋医学という言葉はあたかも西洋の医学がずっと現代のもののような印象を与えるけれど、西洋の医学もかつては迷信に近いようなものだった、ということは多少こちらの文学や歴史をかじったことがある人間だったら知っているはずだ。

 

科学が発達し始めた19世紀の薬も、毒性があったり、常用すると依存性があったりするものがあって、「これはごめんこうむりたい」というものが多い。

 

その中でも「これは絶対・・・・」と思うものの一つが「アンチモン丸薬」 Antimony pill--またの名をeverlasting pill 、つまり「永遠の薬」である。

 

アンチモンは金属で、人体に対する毒性がある、と言われている。

アンチモン丸薬とは、その金属を丸い、玉状にしたもので、もちろん消化されるようなものではないしーそれはもう、上から飲めば下から出てくるだろう、という代物だ。

 

19世紀の人々は嘔吐や下痢を「体の中を浄化する作用」と考えた、と聞いたことがある。

東洋医学の「好転反応」に似た発想で、人間の考えることはどうしてもどこか似通ってしまうのだろう、とこの手の話にぶちあたる度に思う。

 

アンチモン丸薬は、嘔吐や下痢を起こすための薬だ。

小さな金属のボールを飲み込む。そして、吐いたり下痢をしたりした後、排泄物の中から、そのアンチモンの固まりはまた取り出され、洗われてーーあまり考えたくないことだが、再び薬品棚にしまわれたという。次に家族の誰かが体調を崩すまで。

なるほどeverlastingな薬ではあるが、まったくもってぞっとしない。

個々人に所属する「薬」ではなく家族で使うもので、場合によっては何世代もがその「薬」を使ったという。

 

 

Victorian Pharmacy: Rediscovering Forgotten Remedies and Recipes

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