料理人ジャック・モンローとジェイミー・オリバー、など

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Jack Monroeという料理人がいる。と書くのがちょっとはばかられるのは、彼女が料理本を書く人としてはちょっと異色だからで、プロの料理人でも、カリスマ主婦でもなく、レズビアンのシングルマザーで、第一義的にはおそらく社会運動家兼アルファブロガー、だからだ。

失業中週に10ポンドで自分と幼児を食べさせなければならなかった若い女性が,書いていたブログのレシピと直截的な物言いのイングランドの貧困の糾弾が話題を呼び、国会に呼ばれ貧困について語る機会を与えられ、料理本を出すに至った、と言うとイメージがわくだろうか。

対して、普通の子供達が食べている給食の質の低さやワーキングクラスの料理のスキルのなさを是正するべく、努力を続けて来たジェイミー・オリバーは去年の夏、貧しいのに高いTV dinnerを食べている貧乏人を批判して、貧困の何たるかをわかっていないと猛烈な反論を受けた。料理がこういった社会問題の一つの争点になっているのが現在のAusterity Britainであるし、両者ともにそれを十分意識して動いているように見える。ジェイミー・オリバーは去年のクリスマスを狙ってSave with Jamie　という新刊を出している。対するジャック・モンローの書籍はA Girl Called Jack: 100 delicious budget recipes。

ただ、この組み合わせ、ある意味ではジェイミー・オリバーの方が分が悪い。

基本的にレストランのシェフである彼の料理は「新鮮な食材をできるだけ多く使って」「残り物を上手に使い回して」「４人分ぐらいの分量」で作る料理たちだ。それはジャック・モンローが「リゾットライスがなかったらロンググレインライスでもリゾットは作れるわよね。」「新鮮な野菜は旬の時に。冷凍の野菜が一番安い」と言い切ってしまうのとは全く異なる地点から出発している。片方は比較的コスパ良く栄養バランスのとれた美味しい料理を用意する知恵であるのに対し、もう片方はサバイバルとして野菜など買っていられない経済状態の家庭の予算にどうやって野菜に代表される必要不可欠の栄養素を詰め込むかの知恵である。だから前者は伝統的な八百屋や肉屋に美味しくて安いものを教えてもらえと説き、後者にはいかに簡単にパンを焼くかが多く載っている。日本より安いとはいえ、パンは確かに焼いた方が安い。子持ちで求職中の人間に近所のスーパーで食べられそうなものをつかむだけでなく、八百屋や肉屋を回るだけの気力がどのくらい残っているのかは、私にはあまり想像がつかない。子持ちで求職中でない私が育児に疲れきったときに複数の店を回る気力がでない、ということは、体験済みだけれど。

料理本として「使える」かどうかは個々の家庭次第だろうが、平たく言ってしまうと、よく日本の女性雑誌がしばしば特集する「○○円以下のおかず」に非常に似ているのは後者だ。

１０年前私がイギリスを去る前はまだまだ若くて血気盛んで正義感に満ちあふれた料理人だったジェイミー・オリバーは、すでに中年の複数のレストランの経営者だし、周囲の視線もそう変わって来ている。年を取ることで仕事がしにくくなる、のはどちらかといえば、伝統的には女性であったような気がするのだが、彼の場合は、立ち位置が本人の知らぬ間に変わって来ており、苦労しているような感がある。

ちなみに、ジャック・モンローの方も批判がないわけではなく、レズビアンでもある彼女にはむしろむき出しの憎悪がぶつけられることもしばしばある模様。ガーディアンに愛され、メイルに嫌われる料理人ではある。

私が知っている限り二人が特に面と向かって対立している訳ではない。第二次大戦が終わって以来、料理本に社会的使命をもちこんだのなど、この二人ぐらいが一番めだっているものだから（そして、大手スーパーマーケット、セインズベリの広告からジェイミー・オリバーが消えた直後に取って代わったのがジャック・モンローだったから）どうしても比較してしまいたくなるのは致し方ない、とは思う。

*補記　赤江雄一さん@tricycler さんからツイッターでJames Martinも、とご指摘をいただきました。うけてちょっと本文を書き換えました。(2014/6/10)　

Twitter / tricycler: ジェイミーとジャック・モンローに加わったのがジェームズ・マー ...