Life in the UK 2 移民と文学

f:id:ayoshino:20140608005321j:plain 

写真はLife in the UK Official Study Guide, 2013 Edition (Life in the United Kingdom) より。

 

Life in the UK テストには文学と歴史のセクションがある。かつてはバーナード・クリックが書いた移民を歓迎する序文があったということだが、そんなものは第二版に早々に姿を消した。

歴史はそもそもはハンドブックには入っていたものの試験には入っていなかったもので、保守党政権のもと、2012年に入れられることが決定された。本当に最近のことである。

 

結果「アン・ブーリンの次にヘンリー八世と結婚したのは誰か」であるとか「ボズワースの戦いはどのような意味を持ったか」といった質問が入ってくることになり、学ばなければならない箇所においてラドヤード・キプリングにあてられた文字数がジェイン・オースティンを上回ることになった。

幸いなことに私個人にとってはこれはテストが「簡単になった」ことを意味するけれど、果たして移民としてイギリスで生活して行く人々にとってこれらがどれほど必要不可欠な情報であるか、は(それはつまり、最初期にテストに入れられていた「バスの時刻表の読み方」であるとか「生活保護申請の仕方」と比べて、という意味において)色々と悩ましい。

 

さて、このLIfe in the UKテストで、移民が学ぶべき、とイギリス政府によって選び出された「英文学」の歴史というのも、これはこれでまた興味深い。いわゆる通常カノンとされるものとはちょっと違った顔ぶれがそこにはある。

面白いので書き出してみよう。

まずは歴史セクションに入れられた人物。緑色で表示しておく。「代表作」が示されている場合は、それも添えておいたし、ついでに覚えておくべきとされた情報がある場合は、括弧で添えてある。

 

Geoffrey Chaucer, The Canterbury Tales (William Caxton)

John Barbour, The Bruce

William Shakespeare, A Midsummer Night's Dream, Hamlet, Macbeth, Romeo and Juliet

King James Bible

Robert Burns, Auld Lang Syne

Rudyard Kipling, The Jungle Book, If

Graham Greene

Evelyn Waugh

Roald Dahl, Charlie and the Chocolate Factory, George's Marvellous Medicine

 

・・・見事に男性ばかり。「イギリスでは男女は平等です」と何度も言っている割に(それで結構試験に出している割に)は、あんまりそのあたり意識した形跡が見えない選択ではある。

歴史セクションなんで、もう少しバランスをとっても良くないか、と私などは思うのだけれど、まあ、こういう顔ぶれになっている。ちなみにモダニスト作家達は全てスルー。1930年代になるとこんな一文が。

It [the 1930s] was also  a time of cultural blossoming, with writers such as Graham Greene and Evelyn Waugh prominent.

あれほど「イギリスには昔から移民がいて、彼らが文化に貢献してきました」とか書いている割には帰化したT.S. Eliotすらガン無視というのはむしろ清々しいほどと言えよう。30年代の代表作家がこの二人というのも、非常に面白い。The Auden Generationて、そういえば、ありましたね。途中でアメリカ人になってしまったり、生まれがアメリカ人だったりすると入らないのかしら、などと無駄に不安をそそるラインナップでもある。

 

 

それじゃあ、肝心の文学セクションはどうなっているか、というとこんな感じ。

 

Literature

まずは、ノーベル賞受賞者3名。

William Golding, Seamus Heaney, Harold Pinter

それから、まあ、誰でも名前を聞いたことがあるだろうから順当な Agatha Christieと Ian Fleming。そして JRR Talkien, The Lord of the Ringsが続く。

The Man Booker Prizeの簡単な説明がなされ主な受賞者として Ian McEwan, Hilary Mantel, Julian Barnesがあげられる。

ただし、ここまでの人名はあまりテストに出ない。今のところ、模擬試験でも、上の人々の名前に出くわしたことはあまりない。

ということで、おそらくイギリス政府的に推したい作家達は以下のリスト。名前がボールドで強調されて数行の説明が下についたページがある。

Jane Austen, Pride and Prejudice

Charles Dickens, Oliver Twist, Great Expectations

Robert Louis Stevenson,  Treasure Island, Kidnapped, Dr Jekyll and Mr Hyde

Thomas Hardy, Far from the Madding Crowd, Jude the Obscure

Arthur Conan Doyle, Sherlock Holmes series

Evelyn Waugh, Decline and Fall, Scoop, Brisehead Revisited

Kingsley Amis, Lucky Jim

Graham Greene, The Heart of teh Matter, The Honorary Consul, Brighton Rock, Our Man in Havana

J K Rowling, Harry Potter series.

Jane AustenとJK Rowlingの二人が女性。バランスを重視したというよりも、これだけ映画化もされていて英語があまり出来ない人間でも聞いたことがありそうなこの二人を無視したらさすがに文句が来るだろう、と言う感じか。

なんというかある種の趣味が透けて見えるラインナップである。「へー、George Orwellが入らないのかー」「Bronte姉妹は入れないのかー」「でもこの作家は入るんだー」等々、眺めれば眺めるほど趣き深い。歴史セクションから再び顔を出しているEvelyn Waugh とGraham Greeneのコンビなんかも、イギリス政府一押しなのだなあ、と。そして、しつこく言うが、モダニスト作家は蚊帳の外である。

 

次にあるのは「詩人」セクション。小説家には「小説家」という項目がたてられているわけではないので、これも妙な分類だ。

詩人は誰一人ボールドで強調されていない代りに数名抜粋のある人が。キプリングなんか、ここに出ていないのだけれど歴史セクションでIfが抜粋されているので結構「これを書いた人は誰か」という設問があったりする。

Beowulf

Canterbury Tales,

Sir Gawain and the Green Knight

Shakespeare's sonnet

John Milton, Paradise Lost

William Wordsworth, The Daffodilsからの抜粋

Walter Scott (小説も書いたとは言及があるものの、詩人扱い。)

William Blake, The Tygerからの抜粋

John Keats

Lord Byron, She Walks in Beautyからの抜粋

Percy Shelly

Alfred Lord Tennyson

Robert and Elizabeth Browning (この and に思わず笑ってしまう)RB の Home Thoughts from Abroadからの抜粋

Wilfred Owen , Anthem for Doomed Youthからの抜粋

Siegfried Sassoon

Walter de la Mare

John Masefield

John Betjeman

Ted Hughes

 

あえて多くは語らないけれど、これもまた「へええ」という感じのセレクションではある。

 

 ちなみに、歴史セクションには18世紀の項目に突然Sake Dean Mahometと言う人物の項目がある。イギリスに初めてカレーレストランHindoostane Coffee House (そう、店名もテストに出るのだ)を開いた人物で、インドのヘッドマッサージ「シャンプー」をイギリスにもたらした人物、として結構しばしば模擬試験に出てくる、の、だが。

 

彼はまた、インド人で初めて英語で本を書き出版した人物でもある。ハンドブックには書いていないのだが。

 

なんというか、インド人が最初に登場するのが「カレーレストラン」で「シャンプー」で執筆出版がすぽっと抜き落ちるのか、というのも何となく興味深いものではある。